一、思いやる心伝える表現
敬語の歴史は古く、八世紀の「古事記」や「日本書記」に出てきます。敬語はほかの国の言葉にもありますが、日本語では主に、身分の上の人と下の人が円滑に言葉を交わすための表現として発達してきました。
国語学者の大野晋さんは50年ほど前、学習院大学で教えていた時、旧華族出身の学生が手のことを「御御御手」と言うのに驚いたそうです。尊敬・丁寧の意味を表す「御」を三つ重ねて「おみおて」。尊敬の使いすぎですね。
戦後になって、敬語は封建時代の遺物だから民主主義社会ではなくすべきだという意見もありました。国語審議会が1952年にまとめた「これからの敬語」では、敬語は各人の基本的人格を尊重する相互尊敬の上に立たなければならない、と言っています。
文化審議会が今年2月にまとめた「敬語の指針」(http://www.bunka.go.jp)です。コミュニケ-ションをうまく取れるようにし、確かな人間関係を築きために敬語は不可欠だと口説き、具体的な使い方を示しています。特に話題になったのが分類です。
敬語は今まで、尊敬語、謙譲語、丁寧語という3分類がよく知られていました。「敬語の指針」では、謙譲語を謙譲語iと謙譲語ii、丁寧語を丁寧語と美化語に分けて5分類にしました(下図)。社会生活で敬語をより的権に使うためには、5分類の方がよいという意見が学者を中心に強かったのです。
しかし、「敬語の指針」を読んだだけでは、謙譲語iと謙譲語iiの区別は大人でもなかなか理解できません。敬語の中でも最も難しい謙譲語を細かく分けるのは混乱のもとだ、という反対意見もありました。
小学5年、6年の国語科の学習指導要領には「日常よく使われる敬語の使い方に慣れること」とありますが、十分に時間をかけて教えている学校は少ないのが現状です。
4月に行われた全国学力調査の小学・国語Bに、敬語の問題がありました。ス-パ-マ-ケットが配ったお客様感謝セ-ルのチラシに「みなさん、おいで」という表現があり、店長がお客様に使う表現としてはふさわしくないので、書き直す問題です。解答の一例は「みなさん、ぜひ、おいでください」です。
二、「水を上げる」違和感ある?
敬語の使い方は時代とともに変ってきます。例えば、あなたは「植木に水をやる」と言いますか、それとも「植木に水を上げる」ですか?
「あげる」は本来、謙譲語なので、目上の人に対して「差し上げる」という意味を持っていました。それが今では単に「やる」という意味で、人以外の植物や動物にも使われるようになってきました。
昨年行われた文化庁の「国語に関する世論調査」によると、「植木に水を上げる」と答えた男性は、60代以上の世代で5%だったのに対して、10代は 40%でした。「敬語の指針」は「植木」をいつくしみ育てる気持ちは「あげる」「やる」のいずれによっても表現されると、説明しています。
敬語の使い方は大人でも難しいのです。書店にガイドブックが並び、敬語講習会も開かれています。敬語を使う時に大切なのは相手を思いやる気持ちです。分類にばかりとらわれず、身近な人に、優しい敬語を使って見ましょう。
クイズ
こんな時、どう言いますか?
Q1、お母さんが「おコ-ヒ-」とか、何にでも「お」をつけたがるのは、いいのかな?
A:(X)美化語の「お」がなじまない言葉もあるから。「お」のつけすぎは不自然。
Q2、お父さんが友人に出す手紙で、息子のことを「愚息(ぐそく)と書くのは、いいのかな?
A:(O)自分にかかわるものを小さく表すことによって、友人に対する配慮を示しているから。
Q3、よその人に「父は来週、海外へいらっしゃいます」と言うのは、いいのかな?
A:(X)「いらっしゃる」という尊敬語で自分の父親を立てているから。「父は来週、海外へ行きます」が正しい。
Q4、食堂で「ご注文の品はおそろいになりましたでしょうか」と聞かれたけど、いいのかな?
A:(X)「ご注文の品」という物に尊敬語「おそろいになる」を使っているから。「ご注文の品はそろいましたでしょうか」が正しい。
Q5、改まった場面で家族について話す時は「父・母」と呼んだ方が、いいのかな?
A:(O)会合など改まった場面では「父・母」の方がよい。
Q6、「僕」と「わたし」は使い分けた方が、いいのかな?
A:(O)男の人が日常生活で使うのは基本的に「僕」ですが、会議や面接試験の時は「わたし」の方が適当。
Q7、駅のアナウンスで「ご乗車できません」と流れるのは、いいのかな?
A:(X)「ご・・・・」だけなら尊敬語が、「ご・・・・できる」は謙譲語Iになる。乗客の行動には尊敬語を使うべきなので、「ご乗車になれません」「ご乗車いただけません」が正しい。
注:摘自平成19年5月4日【朝日新闻】



















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