
たたかれても、つつかれても、しぶとく低音でなきやまないセミが、横隔膜にしがみついたまま離れようとしないかのようだった。
そいつが体内で発生させる低周波のような欠乏感は手足の指先にまでじわりと伝わり、気力を根こそぎ萎えさせてしまう。場末のホルモン屋に腰をすえて、各種の焦げた内臓かrしたたり落ちる脂で唇をぬめらせた最後の晩飯から30時間余り経過した断食2日目の朝、私は育ちすぎた胎児のような脱力しきってベッドで丸まっていたのだった。
静岡県のJR伊東駅から車で20分ほどの伊豆山中にある、この断食ダイエットの施設は「ヒポクラティック・サナトルウム」という。断食専用といっても道場のように俗人を寄せ付けないいかめしさはない。高級別荘地やゴルフ場と隣合わせて、一見したところペンションのようなたたずまいをしていた。
主宰している内科医の石原結実さんは「おもいっきりテレビ」にもレギュラ-出演していた、ダイエット界では著名なドクタ-だ。過食ゆえに蓄積された体内の老廃物で血が汚れ、それが万病の元になると唱える石原医師が、血液を浄化する手段として提唱している断食療法は、飲まず食わずや、水しか飲めない難行苦行のそれではなくて、ニンジンジュ-スを飲む「ジュ-ス断食」である。
1日の食事メニュ-は午前8時、正午、午後5時45分にそれぞれコップ3杯のニンジンジュ-ス(計600cc),その間に具のない味噌汁を飲む。塩分補給の梅干も食べられる。ジュ-スは無農薬のニンジンとリンゴを3対1の割合でジュ-サーにかけた自家製で、レモンを搾ると口当たりがいい。これで一日約1200キロカロリ-の栄養を補う。
決まりはこれだけ。後はホテル仕様の個室でうたた寝しようが散歩しようが自由で、人里まで下りても構わない。リピ-タ-はゴルフのプレ-までやってのけたりする。
これだけ完全自己責任のシステムならば、聞き分けのない47歳、メタボな日常に身も心もからめとられている私にも辛抱できそうである。しかも今回、9泊10日の基本コ-スではなく、週末の2泊3日のビギナ-お試し版が体験できるのだから、泣きごとを口走ろうはずないではないか。笑止。 笑止。
と油断しきっていたのである。最後の晩飯から20時間弱が経過した初日の夕刻から、空腹のあまり、意識の焦点が横隔膜近辺に固定されてしまって集中力が途切れ、本を読むのもおっくうになった。仕方なくベッドに横たわってテレビを眺めていると、はちきれそうなほど食べ物情報にあふれている現実の異常を発見して力なくむかついているのだった。
このひもじさは、飲み放題の生姜湯と売店で買った黒糖でかろうじて、しのげた。生姜湯は代謝を活発にして老廃物の排泄を促し、黒糖はその効果を倍増するとされていて、黒糖の塊を口に含んで生姜湯を飲むと、ほのかに気力がよみがえるので、二日目はよろよろとゴルフ場をさまよい歩いたりしていた。
60人収容のサナトリウムはほぼ満室で、4分の3は50代から60代の奥様たちのようだった。食堂で具のない味噌汁をかみしめるようにすすりながら、彼女たちのおしゃべりに耳を傾けていると、基本コ-スで5キロ前後は当たり前に減量できるというではないか。
ついに3日目の昼、サナトリウムから解散されると、駅弁に目もくれず、速攻で家に帰り着くまでが断食、と小学生のようにつぶやきながら、体重計へまっしぐらの家路を急いだのである。
自宅でやってみて
家でできるプチ断食法は1日2食が基本。朝はニンジンジュ-スをコップに1~2杯か、黒糖とすりおろした生姜に紅茶を注いだ生姜紅茶を飲むだけ。昼食はなるべく、七味唐辛子と刻みネギをたっぷり振りかけたそばで軽めに済ませれば、夕食は何を食べてもよいらしい。



















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